『デンタルダイヤモンド』
自分探しの旅、なんて若い頃はよく夢見たけど、最近は時間もお金もなくて忘れ果ててました。とこが本屋で偶然見つけたこの一冊、ごろ寝しながらタイムトリップ付き世界旅行ができます。読み終わると、港に着いた船から長い間留守にしていた日本を眺めているような気分に。ちょっと値段の張る本ですが、世界旅行の料金としては破格でしょ。著者の若桑さんはイタリア美術の研究者で、イタリアとの縁が深いのですが、ある時、日本人の私がなぜイタリアを研究するのか、と疑問に思い、自分とイタリアを繋ぐものを探したくなったそうです。だから天正少年使節団は、歴史の彼方の偉人たちではなく若桑さん自身なのです。そしていつの間にか少年たちの一人が私自身であるような気がしてくるから不思議。
時を遡ること四百年あまり。戦国時代の日本から四人の少年が世界に送り出されました。天正少年使節団です。当時の日本はスペイン、ポルトガルという世界にまたがる帝国の影響を受け、キリスト教の伝来という異文化の波を受けていました。ま、要するにグローバル化の波が日本を襲ったのはなにもいまが初めてじゃないということなんでしょうね。
キリシタン大名たちの命を負った少年の軌跡を追い、当時の日本とヨーロッパの空気が活写されるんですが、カメラワークがほんとにいい。結構厚い本なのにずんずん読めてしまうのは当時の人々の生活の匂いやざわめきがどのページからも溢れてくるから。田舎の町に忽然と現れた外科手術もする病院を、町の人々が人肉を食っていると恐れるところやら宣教師の質素な服をいぶかしがったり、それはそれはリアル。反対にヨーロッパに行った日本人たちは好奇な目で眺められます。なんと当時の日本人は肌の色が地中海周辺の白人より白いと思われていたのです。それから初めて日本語を聞いたヨーロッパ人の反応も面白い。歴史の教科書読んでるとき、本当は知りたかったことがここでは書かれているのです。大名や王などトップの人々だけを追うのではなく、市井の人々や少年たちを取り巻く人々の生活や内面が生き生きと描かれています。この中に私の先祖が居たんだなあ、なんてキリシタン大名の大友宗麟のお膝元の大分出身の私は思ってしまうのです。
長い旅行をした後、日本に帰ってくるといままで気づかなかったことに気づいたり、驚いたりするものですが、四人の少年を待っていたのはそれ以上に過酷な運命でした。歴史に残らない彼らの心に迫ろうとする若桑さんの筆は、今日に繋がる日本の姿も描き出しています。たっぷり冒険旅行した、と思わせてくれる本ですよ。