少年Aシリーズその1

新学期

2002/9

 

新学期になった。高校生の息子はいよいよ無口になり、お喋りな母はいよいよ手持ちぶさたになった。黙々と鰻丼を掻き込む息子。「めし」「金」「るせえ」のほか言葉を知らぬこの息子から何とか単語二つ以上の会話を引き出すのだ。

 

 母「学校どうだった?」

 息子「建ってたよ」

 母「へえ!この炎天下腐りもせず?」

 息子「うん」

 母「友達は?どうだった?」

 息子「腐ってなかったよ」

 母「校長は?」

 息子「生きてたよ」

 母「丈夫よねえ」

 

ああ、初めてピンポンの玉を打ち返す喜び!ラリーが成立したのである。母は心から満足し、満腹した息子は「ったく」の一言を残して食卓を立つのであった。