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読売新聞06年12月26日(夕刊)掲載

 

旧約聖書の民数記には大きな葡萄のことが書かれている。神が見て来るよう言い付けたカナンの地、ヘブロン近くのエシュコルの谷には一房を二人で担うほどの大きさの葡萄が実っていたと言う。その豊かな土地は、今二つの宗教がぶつかり多くの命が失われる悲劇の象徴となっている。
 今夏、友人の住むイタリアの貧しい村で見た葡萄は、切り立った山の岩をくりぬいた段々畑でひっそりと育てられていた。黒く小さな実であった。

 

 クリスマス果てし街には残るべしヘブロンの漆黒の巨(おほ)きな葡萄

 

 聖書伝ふるヘブロンの葡萄一粒の巨(おほ)きさあるひは人頭大か

 

 われをめぐり争へといふ黒葡萄脈打ち太る日本の闇に

 

 さびしかり父母は悲恋を知らざれば奪ひあひ殺しあふこと知らざれば


 発熱し父に背負はれゐし夜の吾よ葡萄の重さなりしか


 子はわれが闇に育む巨(おほ)葡萄いかなる神も奪ふべからず